シーサイド・ティアーズ~潮風は初恋を乗せて~
 それは、ショウ君と二人、自転車でどこかへ向かう途中のことだった。
 当時、すでに私たちは二人とも、補助輪なしの自転車に乗っていたんだけど……。
 突然、私が転倒し、足を怪我したんだった。
 すぐに「大丈夫か?!」と叫び、駆け寄ってくれたショウ君。
 私は、大泣きだったように記憶している。
「後ろ、乗れ!」
 ショウ君はそう言うと、自分の後ろに乗るように、私に促す。
「ええっ、二人で乗るの?」
「怪我して歩けないだろ?」
「それはそうだけど……。大丈夫なの?」
 涙声でそう言いながら、言われた通りに後ろに乗る私。
 しかし……ショウ君がペダルを漕ごうとしても、私が乗っている重みのために、前に進まない。
 ふらふらとよろめき、「おっとっと」と声をあげるショウ君。
 私たちはまだ幼稚園児だったのだから、無理はない。
「ちくしょう。自転車は後で取りに来るとして……。ほら、僕の背中に乗れ」
 自転車から私を降ろし、自分も降りると、今度は背中を差し出すショウ君。
「え? おんぶ?」
「おう。自転車が上手くいかないんだし、これしかないだろ」
 私は物凄く恥ずかしかったので、ちょっと抗議したように思う。
 申し訳なかったんだけど、しょう君に誰か大人の人を呼んできてもらおうとしてたっけ。
 でも、ショウ君は聞き入れない。
「雫を一人、ここに残して行けるわけがないだろ! 誰かに連れ去られでもしたら、どうするんだよ。ただでさえ、今は足を怪我して動けないんだからな。さぁ、早く早く。僕は平気だから」
 その言葉に、私も観念し、恥ずかしいのを我慢して、ショウ君の背中に身体を預けた。
 たまらなく恥ずかしい反面、嬉しかったのをはっきり覚えている。
 いつもより広く感じられた彼の背中。
 私は身体をくっつけながら、安心感を感じていた。
「しっかりしがみついてろよ。僕に任せろ」
 その心強い言葉が、私に更なる安心感を与えてくれる。
 今、思い返すと……私を背負って歩いているショウ君は、すごく大変だったはずなのに。
 途中、よろめいたことも、二三度どころじゃなかったっけ。
 でも、ショウ君は弱音を吐かずに、私のうちまで歩いていってくれた。
 私をおんぶしながら。

 思い出に浸っていた私は、目を開ける。
 そういえばあの頃は、ショウ君と二人、自転車で島中を走り回っていたように思う。
 楽しかったなぁ。
 私は、大きな自転車を軽く数回撫でてから、ガレージを後にした。
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