シーサイド・ティアーズ~潮風は初恋を乗せて~

海へ

 その後、少し疲れたので、別荘内に戻ることにした私。
 すると、玄関口へ戻ったところで、蓮藤さんとばったり顔を合わせた。
「雫様! ご両親とご一緒ではなかったのですか?」
 蓮藤さんは目を丸くして驚いている。
「ええ、両親の邪魔にならないかと思いまして。今から思えば、連れていってもらったほうがよかったんですけれど。今、すごく退屈で」
「そうでしたか……。てっきり、ご両親とご一緒だと思い込んでおりましたもので、大変失礼いたしました。そういうことでしたら、これから私が島をご案内いたしますよ」
「えっ。そんな、申し訳ないですよ」
「いえいえ、実は会長より『自分が到着するまでは、ご退屈なさらないように、島の案内等よろしく頼む』と指示されておりまして。雫様は以前この島におられたとお聞きしましたが、それから20年もの月日が経過し、島もかなり変わってきています。不肖蓮藤が、責任を持ってご案内いたしますので。ご迷惑でなければ、の話ですが」
 爽やかな笑顔を浮かべる蓮藤さん。
 特に断る理由もないので、申し出をお受けすることにした。
「では、よろしくお願いいたしますね」
「こちらこそ、よろしくお願い申し上げます。では、早速ですが、まず海へ行ってみませんか? 二階バルコニーからご覧いただけるとおり、徒歩でもじゅうぶん行ける距離なのですよ。自転車や自動車を使って移動していては見逃すようなものも、歩いていけば楽しめますし。バルコニーには、もう出られました?」
 バルコニーがあるんだ。
 オーシャンビュー……素敵かも。
「まだですが、後で見させていただきますね。あ、友人と会う約束があるのですが……午後4時までには帰れますよね?」
 里子と会う約束をしているので、気になって尋ねた。
「もちろん、問題ございません。海はすぐそこでございますので」
「では、海へのご案内、よろしくお願いします」
「かしこまりました。では、参りましょう」
 そう言うと、玄関の扉へ駆け寄り、開けてくれる蓮藤さん。
 私は会釈をしてから、その扉から出る。
 すると、後ろから蓮藤さんが素早く私を追い越すと、今度は門扉を開いてくれた。
 こんな風にエスコートされると、何だかお姫様にでもなった気分で、すごく嬉しい。
 しかも、エスコートしてくれるのが、王子様のようにかっこいい蓮藤さんだし。
 私はウキウキしながら、門を出た。
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