シーサイド・ティアーズ~潮風は初恋を乗せて~
 徒歩でおよそ10分。
 私たちは、すぐに浜辺へとたどり着いた。
 フェリーから見ていたとおりの美しさだ。
 ショウ君があの宝貝をくれたのも、こういう砂浜だったかな。
 記憶が曖昧で断言は出来ないけれど、そんな気がしていた。
 そう言えば……夏休み中のある日、二人で早起きし、砂浜を駆けっこした想い出もある。
 楽しかったなぁ。
 エメラルドグリーンの海と、きらめく波しぶきは、あの頃のままみたいに思えて、少し嬉しくなった。
 何気なく隣に目をやると、蓮藤さんが気持ち良さそうに深呼吸している。
 ふと目が合い、ドキッとする私。
「気持ちいいですね。潮風の香り、好きなんですよ」
 笑顔で言う蓮藤さん。
「私もです。私にとっては、すごく懐かしい香りで」
「雫様は、長らくこの島を離れてらっしゃったんですよね。久々の故郷、いかがですか?」
「変わっていない部分が多くて安心していますよ。変わったのは……」
 変わったのは…………。
 隣にショウ君がいないこと。
 もっとも、私が島を離れた時点で既に、彼はいなかったんだけど。
 でも、そんなことを、蓮藤さんに言えるはずもない。
「変わったのは?」
 不思議そうな表情で蓮藤さんが聞く。
「私が年を取っちゃったことですね」
 私は苦笑しながら言った。
「何をおっしゃいますか。雫様はまだお若いですよ。かく言う私も、雫様と同い年ですので、まだまだこれからの人間ですって」
「あら、蓮藤さんって、私と同い年だったんですか!」
「老けてみえますか?」
 悪戯っぽい笑顔の蓮藤さん。
 蓮藤さんって、こんな表情もするんだ。
「い、いえいえ! そんな意味では!」
「ははは。いいんですって」
 気にする様子もなく、蓮藤さんは笑っている。
 その笑顔を見ていると、無性にドキドキしてきた。
 こんなに素敵な男性と、二人で話す機会なんて、私には滅多にないせいかも。
 そんな胸の高鳴りをごまかそうと、私は波打ち際へ向けて歩き出す。
 後ろをゆっくり蓮藤さんもついてきてくれた。
 ふと、サンダル越しに何か硬いモノを踏んだような感触がして、立ち止まる私。
 石かなと思い、しゃがんで確認すると、それは貝殻だった。
「巻貝ですか。美しいですね」
 後ろから声をかけてくれる蓮藤さん。
「貝殻に触るのも、久々なんですよ。島を離れて以来、そういう機会もありませんでしたから」
「なるほど。では、ここから数百メートルほど離れた磯へも行かれませんか? この砂浜よりも石や貝殻が多いはずですし。そうそう、宝貝なども見られると思いますよ」
 その「宝貝」という言葉に、ビクッとする私。
 宝貝……ショウ君がくれた、私の宝物。
 また拾ってみたい……!
「是非、お願いします!」
「了解いたしました。では、私についてきてくださいね」
 私は蓮藤さんについていった。
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