シーサイド・ティアーズ~潮風は初恋を乗せて~
 ヒマワリ畑に着くまでの道中も、島について色々な話をしてくれた蓮藤さんのお陰で、全く退屈せずに済んだ。
 そして、漕ぐのは8割がた蓮藤さんにお任せしてしまっていたので、私は非常に楽だった。
 申し訳ない気持ちでいっぱいだったけど。
 でも、蓮藤さんは「全然お気になさらず。このぐらい、どうってことないですよ」と言ってくれた。
 そして―――。
 私たちは、ヒマワリ畑に到着した。

 何も確証はないけれど、「ショウ君との想い出のヒマワリ畑だ」と私は確信していた。
 あたり一面を多い尽くすヒマワリの群れ。
 その鮮やかで圧倒的な景色。
 この島でこんな場所って、ここ以外にないはず。
 想い出の風景とは異なっている点が幾つか見受けられた。
 一つは、当時よりもヒマワリが縮んだように感じられたこと。
 これはきっと、私の身長が伸びたせいだろう。
 当時は幼稚園児だったわけだし。
 そしてもう一つは……隣にいる人が、ショウ君ではなく、蓮藤さんだということ。
 それは明らかに「当時とは異なる点」であるはずなのに、なぜか隣の蓮藤さんと、想い出の中のショウ君が重なって見えた。
 もしかしたら、二人の共通点である、爽やかな微笑みのせいかもしれない。
 私はしばし、ヒマワリと蓮藤さんを交互に見やっていた。
 風に揺れるヒマワリと、それに見とれているような蓮藤さんを。
「ご存知ですか? 食べられるんですよ」
 蓮藤さんは悪戯っぽく笑うと、そばに立っているヒマワリの花に触れる。
 そして、種を抜き取ると、ためらうことなく口に入れた。
 想い出の一幕と同じ展開!
 こういうのをデジャヴっていうのかな。
 ショウ君が一度同じ行動を取ってくれていたお陰で、私にはそれほど驚きがなかった。
 でも、「食べて大丈夫なのですか?」と一応聞いておくことに。
「むしろ健康に良いんですよ。こうして生で口にいれ……殻は出します。失敬」
 そういって、どこから取り出したのか、左手に持っている袋へと、殻を吐き出す蓮藤さん。
 いちいち挙措動作が洗練されているように感じられ、汚らしさを感じない。
 こう書くと、ショウ君のときは汚らしさを感じたように思われるかもしれないけど、そういうわけじゃなくて。
 ショウ君は何というか、蓮藤さんよりも荒々しさや豪快さがあったから。
「雫様もいかがですか?」
 でも、私は食べる気はしない。
 何年経とうが、変わらず。
 なので、「遠慮しておきます」と答えておいた。
「不思議そうに見てますね」
 蓮藤さんは愉快そうに笑って、言葉を続ける。
「別にハムスターだけじゃないんですよ、これを食べるのは。海外では実際にこうして食べられております」
 もう一つ口に入れる蓮藤さん。
 やっぱり、誰でもハムスターを連想するんだなぁ。
 あの時のショウ君も、確かハムスターって言ってた気がするし。
 そもそも、知らない人からすると、人間が食べるものだとか、そんな考えは思いつかないって。
「海外では、ヒマワリの種を食する際に、わざわざ殻を入れる皿を用意することもあるんですよ。また、塩水にくぐらせたあと、さっと炒ってもおいしいですし、今度コックに命じて、ご提供いたしますよ。そういえば、米国野球の大リーガーはしょっちゅう食べていますね」
 へぇ~蓮藤さんって野球に詳しいのかな。
 それにしても、私にとってはどう考えても、「そこまでして食べなきゃいけないもの」に見えないんだけどなぁ……ヒマワリの種って。
 だけど、蓮藤さんの手前、そんなことを言えるはずもなく、当たり障りのない答えに終始しておいた。
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