シーサイド・ティアーズ~潮風は初恋を乗せて~

ショッピング

「では、出発しますね」
 私たちは車に乗り込んだところだ。
 運転は蓮藤さんがしてくれることに。
 私が「何から何まですみません」と言うと、蓮藤さんは「気にしないでください。これも仕事の一環なのですよ」と答えてくれた。
 その言葉に、少しだけ寂しくなる私。
 桜ヶ丘さんのご命令で、蓮藤さんは尽くしてくれているわけだから、仕方ないことなんだけど。
 ………。
 昨日から薄々感じていたことを、このとき強く意識した。
 私……蓮藤さんのこと、好き。
 こんな気持ちになるのは、ショウ君との初恋以来だ。
 だから、すごく戸惑ってしまう。
 ショウ君との初恋を裏切りたくない、という想いも強くて。
 だけど、間違いなく、私は蓮藤さんが好き。
 このことは、疑いようのない事実だった。
 そんなとき―――。
 車をバックさせるとき、後ろを振り返る蓮藤さんの横顔が、私の顔に急接近。
 ドキドキが全くとまらなかった。
 そして、ハッとする。
 これって……ものすごく、まずいんじゃ……。
 ショウ君との初恋は、私だけの問題だから、この際、置いておいたとしても……私は、桜ヶ丘さんとのお見合いで、ここに来たのだ。
 桜ヶ丘さん、烏丸さん、両親たちだけでなく、蓮藤さんご本人も、「このお見合いを成功させるため」に動いてくれている。
 それなのに、「秘書さんと恋したから、破談に」なんて言えるはずがない。
 全ての人に失礼だし、蓮藤さんもただただ困惑なさるだけだろう。
 この恋……叶うはずがない。
 ……ショウ君との初恋と同じく、叶わない恋だ。
 それに……根本的な問題がある。
 蓮藤さん……既婚かも。
 私、蓮藤さんのこと、何も知らない!
 知ると、ますます好きになる可能性もあり、それは怖いけれど。
 でも、いきなり「既婚ですか? 未婚ですか?」だなんてこと、聞きづらいなぁ。
 蓮藤さんは顔が近づいたことを何も気にしていないのか、平然と車を発進させて言った。
「すぐ到着しますから」
 そして、私たちの車はショッピングモールを目指して走り出した。
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