シーサイド・ティアーズ~潮風は初恋を乗せて~
「ん? どうした? やっぱりもう俺に嫌気が差したのか?」
おどけた様子で聞く蓮藤さん……じゃなく、翔吾君。
ショウ君じゃないよね……?
でも……私は聞くことができなかった。
その理由は、少なくとも二つある。
まず第一に……もし仮に翔吾君がショウ君だとしたら……私の存在は完全に忘れられているってことだから。
もし万が一、その仮定が正しくて、翔吾君が今まで、「職務上、言い出せない」ってことで、私と面識があることを隠していたとしても……こうして、恋人関係になった瞬間、隠す意味はなくなるはず。
だから、もし翔吾君がショウ君なら……私のことを完全に忘れちゃっているとしか思えず、そんなのは悲しすぎて耐えられない。
また第二に、もし別人だったとしたら、そんなことを尋ねた時点で、「ふーん、その想い出の彼をいまだに想ってるわけだな」などと思われそうで。
それも嫌だった。
そう思われなかったとしても、別人だった場合、お付き合い開始した途端、唐突に初恋相手の話題を出されるなんて、誰だって良い気持ちはしないだろう。
そういうわけで、この場で言い出す勇気は、私にはなかった。
「そ、そうじゃないよ、もちろん!」
「だったらいいんだがな。どうも、雫はさっきから、俺の態度に不満を感じてそうだから。嫌なら、元通りに戻していいんだぞ」
「ううん、そんな風に思ってないから! 翔吾君、よろしくね」
慌てて言う私。
「よろしくな、雫。で、明日の夏祭りへは、『行く』って答えだと俺は受け取っておくぞ。今さら、キャンセルは受け付けないからな」
「うん、よろしくね。キャンセルなんて、しないよ。楽しみだね」
「そうだな。実は俺、夏祭りへ行くのは相当久しぶりだ。テンションが無駄に上がってきて、困ってるよ」
楽しそうに翔吾君は笑う。
そんな翔吾君を見ていると、自然と私も笑顔になった。
うん、こういう翔吾君も好き。
二人っきりでいられて、本当に嬉しい。
すると、突然、翔吾君が顔を近づけてくる。
え? え?
まさか、早速キス?
私はすっかり固まってしまった。
身体は小刻みに震えていたと思う。
あっという間に……翔吾君は私のほっぺに軽くキスしてくれた。
1秒以内だったはずなのに、私にとっては長く感じられたキスを。
「とりあえず、雫はまだ俺に慣れてないみたいだから、唇へはやめておいた。もう雫は俺の女になってるんだから、唇にされても拒む権利はないはずだけどな。感謝しろよ、ほっぺで我慢してるんだ」
「あ、ありがとう……」
頭が混乱してうまく言葉が出ないながらも、私は懸命に感謝の意だけ伝えた。
そして、実際、嬉しかったから。
ほっぺへのキス……こんなに素敵なものだなんて。
頭がくらくらして、心臓がドキドキして、私はまるで風邪で熱でもあるかのような気分だった。
ふわふわ、地に足が着いていない感じというか……。
それでいて、とてつもなく幸せな気分。
こんな気分になるなんて。
「まぁ、唇へは俺のタイミングでさせてもらう。拒む権利はないからな」
「拒まないってば。本当に嬉しいよ、ありがとう」
「おう」
ここで、少し鼻の下をこする翔吾君。
「で、いつから俺のことを?」
「うーん、気づいたときにはもうそんな感じで。具体的には言えないけど、少なくとも今日の午前中には多分もう……」
「そうか。俺は正直、お前を初めて見たときからだな」
「えっ?」
そんなに早くから……。
「まぁ、俺には俺の立場があるだろ。そんなこと言い出せるはずがないけどな。だから、雫からこうして言ってもらえて、俺としてはすごく感謝してるよ」
「いえいえ、そんな……」
おどけた様子で聞く蓮藤さん……じゃなく、翔吾君。
ショウ君じゃないよね……?
でも……私は聞くことができなかった。
その理由は、少なくとも二つある。
まず第一に……もし仮に翔吾君がショウ君だとしたら……私の存在は完全に忘れられているってことだから。
もし万が一、その仮定が正しくて、翔吾君が今まで、「職務上、言い出せない」ってことで、私と面識があることを隠していたとしても……こうして、恋人関係になった瞬間、隠す意味はなくなるはず。
だから、もし翔吾君がショウ君なら……私のことを完全に忘れちゃっているとしか思えず、そんなのは悲しすぎて耐えられない。
また第二に、もし別人だったとしたら、そんなことを尋ねた時点で、「ふーん、その想い出の彼をいまだに想ってるわけだな」などと思われそうで。
それも嫌だった。
そう思われなかったとしても、別人だった場合、お付き合い開始した途端、唐突に初恋相手の話題を出されるなんて、誰だって良い気持ちはしないだろう。
そういうわけで、この場で言い出す勇気は、私にはなかった。
「そ、そうじゃないよ、もちろん!」
「だったらいいんだがな。どうも、雫はさっきから、俺の態度に不満を感じてそうだから。嫌なら、元通りに戻していいんだぞ」
「ううん、そんな風に思ってないから! 翔吾君、よろしくね」
慌てて言う私。
「よろしくな、雫。で、明日の夏祭りへは、『行く』って答えだと俺は受け取っておくぞ。今さら、キャンセルは受け付けないからな」
「うん、よろしくね。キャンセルなんて、しないよ。楽しみだね」
「そうだな。実は俺、夏祭りへ行くのは相当久しぶりだ。テンションが無駄に上がってきて、困ってるよ」
楽しそうに翔吾君は笑う。
そんな翔吾君を見ていると、自然と私も笑顔になった。
うん、こういう翔吾君も好き。
二人っきりでいられて、本当に嬉しい。
すると、突然、翔吾君が顔を近づけてくる。
え? え?
まさか、早速キス?
私はすっかり固まってしまった。
身体は小刻みに震えていたと思う。
あっという間に……翔吾君は私のほっぺに軽くキスしてくれた。
1秒以内だったはずなのに、私にとっては長く感じられたキスを。
「とりあえず、雫はまだ俺に慣れてないみたいだから、唇へはやめておいた。もう雫は俺の女になってるんだから、唇にされても拒む権利はないはずだけどな。感謝しろよ、ほっぺで我慢してるんだ」
「あ、ありがとう……」
頭が混乱してうまく言葉が出ないながらも、私は懸命に感謝の意だけ伝えた。
そして、実際、嬉しかったから。
ほっぺへのキス……こんなに素敵なものだなんて。
頭がくらくらして、心臓がドキドキして、私はまるで風邪で熱でもあるかのような気分だった。
ふわふわ、地に足が着いていない感じというか……。
それでいて、とてつもなく幸せな気分。
こんな気分になるなんて。
「まぁ、唇へは俺のタイミングでさせてもらう。拒む権利はないからな」
「拒まないってば。本当に嬉しいよ、ありがとう」
「おう」
ここで、少し鼻の下をこする翔吾君。
「で、いつから俺のことを?」
「うーん、気づいたときにはもうそんな感じで。具体的には言えないけど、少なくとも今日の午前中には多分もう……」
「そうか。俺は正直、お前を初めて見たときからだな」
「えっ?」
そんなに早くから……。
「まぁ、俺には俺の立場があるだろ。そんなこと言い出せるはずがないけどな。だから、雫からこうして言ってもらえて、俺としてはすごく感謝してるよ」
「いえいえ、そんな……」