シーサイド・ティアーズ~潮風は初恋を乗せて~
 私もその後、幼稚園卒園と同時に、島を離れた。
 そのため、島で過ごしていた頃からの友達で、今でも連絡を取っている子は、榎田里子(えのきだ さとこ)、ただ一人だけだ。

 幼稚園時代に仲が良かった子は、ショウ君と里子の他に、「オサム君」という男の子もいたが、卒園以来疎遠となり、連絡を取ったことはない。
 この四人で遊んだ思い出も多いんだけど、ショウ君と離れ離れになり、抜け殻のようになってしまった私にとっては、それ以来良い思い出は数えるほどしかなくて。
 必然的に、現在まで残っている記憶は、大半がショウ君と二人っきりの時のものだ。

 それでも、里子とはそれ以降も、年賀状を毎年送りあったり、たまに電話したりして、交流を続けている。
 ショウ君、オサム君は、今頃、どこで何をしているのかなぁ。
 里子にそれとなく聞いたことはあるが、「ショウ君のことは、全く知らない。オサム君も小学3年生の時に島を離れていって、長らく会えなかったけど、最近島に戻ってきたみたい。お互い忙しくて、まだ会えてないんだけど」だそうだ。
 元気にしているのかな……。

 オサム君には申し訳ないけど、やはり私にとっては、ショウ君こそ、唯一無二の特別な存在だ。
 あの初恋以来、この20年の間に、私も2回ほど男性とお付き合いしたことはある。
 ただ、いずれもうまく行かず、1年と経たずにお別れしてしまった。
 そして、そのたび、私はショウ君とのあの恋を思い出す。
 この話をするたびに、友達たちはよく「思い出を美化しすぎているのでは」「一途に初恋相手を思うのもいいけど、そろそろ現実を見ないと」「初恋は実らないという鉄則、あながち本当かもよ」みたいなことを言ってくる。
 半分は冗談だろうけど、半分は本気かも。
 本気で私を心配して言ってくれている可能性はあるし、そういう空気は感じる。
 それでも私にとっては、あの初恋は忘れられない思い出だから。
 たとえ、もう二度と会えなくても。

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