シーサイド・ティアーズ~潮風は初恋を乗せて~
 洞窟内の、このひんやりした感じ。
 辺りを包む静けさ。
 そして、この独特の雰囲気。
 間違いない!
 ショウ君との「秘密の場所」だ……。
 私はしばし、呆然としていた。
 ここにまた来ることになるなんて。
「静かで……とても心が落ち着くね」
 私の心の中は、とてもじゃないけど落ち着く状況じゃなかったけれど、それをごまかすためにそう言っておいた。
「だろ? 絶対気に入ってくれると思ってたよ」
 嬉しそうな翔吾君。
 うう……言い出せない、初恋相手との想い出の場所だなんて。
「ここの秘密も、雫と共有だ。恐らく、この洞窟のことは、ほとんど知られていないはず。こんな岩だらけの島まで遠泳しようとする人間は少ないだろうからな。あと、この島の南側に上陸しても、この洞窟にはたどり着けないんだぜ。必ず、こちら側に上陸しないと、まず気づかないはずだ。そういうこともあって、恐らくは誰にも知られていないと思われる。雫と俺だけの秘密だな」
「うん……。私なんかに教えてくれて、ありがとう」
「『なんか』とか言うのも、今後はナシだ。俺がどんだけ、お前のことを大事に思っているか。すぐに、それを分からせてやるさ」
 そう言って翔吾君は―――。
 私の唇にキスしてくれた。
 驚きと喜びで、声も出ない私。
 私のファーストキス。
 この特別な場所で、特別な翔吾君から。
 一生忘れられない……。
 キスされた瞬間、そう思えるほどだった。
「私も……翔吾君のこと、大好き」
 同時に、私は心の中で、ショウ君にサヨナラをした。
 寂しい気持ちはあるけれど、私の心にはただ一人、翔吾君だけ。
 これが最早はっきりしたから。
 だけど、ショウ君のことを完全に忘れるわけではない。
 それはできないから。
 ただ、今までのようなふわふわした気持ちで、翔吾君とお付き合いしているのって、ショウ君にも翔吾君にもどちらにも失礼だと感じて。
 私に素敵な初恋をくれたショウ君に対して、私は感謝してもしきれない思いだった。
 二度と逢えなくなっちゃったけど、ここまで20年も待ち続けていたから……許して、ショウ君。
「雫、愛してるよ」
 そう言って、ギュッと抱きしめてくれる翔吾君。
 私たちはしばし、水着姿のまま、きつく抱き合っていた。
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