シーサイド・ティアーズ~潮風は初恋を乗せて~
 車で走ること、約30分。
 私たちはカラオケボックスへと到着した。
 受付カウンターでのやり取りを済ませ、足早に部屋へと入る私たち。
 カラオケはよく来てるけど、こうして男性と二人っきりで来るのは初めてだ。
 しかも、大好きな翔吾君とだし、ちょっと緊張している。
「さぁ、何か歌えよ」
 ソファーに落ち着くと、早速そう言う翔吾君。
「じゃ、じゃあお言葉に甘えて」
 私はポップスのバラードを歌うことにした。
 翔吾君は、あまり画面を見ず、私ばかり見てくれている。
 視線がすごく嬉しかった。
「上手なんだなぁ」
 歌い終わった後、拍手しながら翔吾君が褒めてくれた。
「大げさだって。普通だよ」
「じゃあ、俺の歌唱力は普通じゃないってことか」
 今度はがっくりと肩を落とす翔吾君。
「そ、そういう意味じゃなくて。じゃあ、翔吾君も歌ってよ」
「俺、歌わないとダメか?」
 今までとうって変わって、自信なさそうな表情で翔吾君は私を見つめる。
 こんな表情を見るのも、初めてで新鮮かも。
「だ~め。交互に歌わないとね」
 ここは、私も譲らない。
「は~い」
 翔吾君はしぶしぶ、本を見て曲選びを始める。
 そして、番号を入力すると、マイクを握り、歌い始めた。
 その歌声は、本人が気にしているほど下手ではなかったように思う。
 翔吾君もバラードを選曲したみたいだけど、気持ちをこめて歌っているのが伝わってきて、すごく楽しめた。
 まぁ、私が翔吾君の全てを愛しているから、そうなのかもしれないけど。
 一所懸命に歌う姿に、私はしばし見とれていた。
「ふぅ、やっと終わった」
 歌い終えて、翔吾君はマイクを起きながら言う。
「お疲れ様。どうしてそんなに気にしているの? 心がこもってて、すごく良かったと思うよ」
「そんなはずないだろ。これでも、練習はしてみたんだけどな。そんな慰めを言ってくれるのも、雫だけだ。ありがとな」
「慰めじゃなくて、本当に」
「ともかく、ありがと。で、交互に歌うんだろ? 次は雫の番だ。俺は別にもう歌わなくても大丈夫だから、後は全部雫が歌ってもいいぞ」
「だ~め。交互だよ」
「はいはい」
 しょうがないなぁ、といった感じで笑う翔吾君。
 それから先も、交互に歌い続け、楽しい時間を過ごした。
 それにしても、どうして翔吾君本人が、そんなに歌のことを気にしているのかが分からない。
 確かに時々、音を外すことはあったけど、そんなの誰だってそうだし。
 歌が苦手だと言っていたショウ君は、もっと苦手そうにしていた記憶がある。
 そういえば……ショウ君も翔吾君も、歌が苦手って言ってることになるんだなぁ。
 ……これも偶然かな。
 私と同い年で、「ショウ」が付く名前で、歌が苦手で、運動が得意な人なんて……いっぱいいるはず。
 ショウ君と翔吾君に、色々と共通点があるのは……恐らく、「私の好みの男性が、そういう人」だってことだろう。
 名前の件は偶然として。
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