シーサイド・ティアーズ~潮風は初恋を乗せて~
 そして、私が漣渚島に再び戻ってきた理由は………この島にてお見合いをするからだ。
 お見合い相手の方が所有する別荘の1つが、ちょうど漣渚島にあるということを、その縁談を紹介してくれた親戚が知り、「雫(しずく)ちゃんのご両親の故郷でもあり、雫ちゃんが幼稚園卒園まで過ごした漣渚島にて、お見合いをしないか」と持ちかけてくれたのだった。

 私ももう26歳ということもあり、方々(ほうぼう)からお見合いの話を持ちかけられることは多い。
 そのほとんどを断っているんだけど、両親からの猛烈なプッシュもあって、今回は断りきれなかった。

 両親が乗り気な理由は色々ありそうだけど、大きなものは二つだと思う。
 一つは、ロケーションが両親と私の故郷である漣渚島だということだから、そしてもう一つは、お見合い相手のステータスがハンパないからだろう。
 今回のお見合いのお相手は、桜ヶ丘グループの創始者であり、現会長でもある人だ。
 事前に送ってもらった履歴書のような体裁の書類を見せてもらったが、非常に整っていて綺麗な文字が並んでいた。
 桜ヶ丘尚哉というお名前みたいだけど、漢字部分だけでなく、フリガナ欄の「サクラガオカ ナオヤ」と書かれたカタカナですら、とても美しかった。
 尚哉という名前からは個人的にはイケメンを想像させる気がするけど、実際イケメンだ。
 写真もしっかり貼られていたから。
 しかも大企業の会長。
 有給を取る理由として、この話を同僚や友達に話したんだけど、みんなすごくうらやましがっていた。
 そして両親も「こんなに良い縁談は、なかなかないぞ」とかなり喜んでいるようだ。

 しかし、私の心は晴れない。
 もし、受け入れれば、ショウ君との本当のお別れとなるから。
 ショウ君のことを忘れなくちゃならなくなるんだから。
 しかも、彼との思い出が詰まったこの島で。

 ただ、今まで縁談をさんざん断りまくっているから、「さすがにそろそろ一度くらいお見合いをしないと、両親や親戚たちに申し訳ない」という思いも湧いてきていて、今回はとりあえず会ってみるだけ会ってみることにした。
 そして、両親と同じく、「漣渚島に久々に帰郷したいから」ということも、断れなかった理由の一つだ。
 最終的には、この話も破談になると思うんだけど。
 初恋以来、私は誰かに恋をしたこともないし。
 そもそも、私の心が乗ってこないし、こんな状態で「お話をお受けして、結婚する」などと言うのは、桜ヶ丘さんに失礼だと思うから。

 でも、両親や友人の言っていることが正論であることぐらい、私にだって重々分かっている。
 たしかに……このまま、ショウ君を待ち続けても、苗字すら知らないからどこにいるのかも分からないし、再び会えるのかどうかも分からない。
 それにまた、ショウ君が私と同じ気持ちでいてくれるという保証もないので、再会したところで、お付き合いできるかどうかも怪しいと思っている。
 私のことなど、もうすっかり忘れられているかもしれないから……。

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