シーサイド・ティアーズ~潮風は初恋を乗せて~

夏祭り

 別荘に帰り、支度を始める私たち。
 私は部屋で、浴衣の着付けをした。
 お化粧も持ち物もばっちり。
 あとは、里子から借りている草履を履くだけ。
 私は部屋を出て、玄関へと向かった。

「大変、お美しゅうございます」
 玄関で待っててくれた翔吾君が、そう言って頭を下げてくれた。
 別荘内では、誰に見聞きされるか分からない心配があるので、お互いこういう態度だ。
「ありがとうございます。蓮藤さんは、スーツのままなんですね」
「はい。私は男ですので、これでよろしいかと。一応勤務中ですので、私服で参りますわけにもございませぬゆえ」
 そっかぁ、翔吾君にとっては、一応、勤務時間なのか……。
 何だか、すごく大変そう。
「色々とお手数をおかけして申し訳ございません」
 そう言ってしまってから、「しまった!」と思った。
 強引にキスされちゃう。
「いえいえ、お気になさらず。では、出発いたしましょう」
 しかし、さすがに翔吾君は何もしてこない。
 そして、それがちょっぴり寂しい私。
 やっぱり、さっきみたいに、くだけた調子で接してほしいなぁ。
 玄関のドアを開けて、私が出るのを待ってくれている翔吾君に目礼し、玄関を出ながらそんなことを思っていた。
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