シーサイド・ティアーズ~潮風は初恋を乗せて~
「うん、ずっとショウ君だけのモノだよ。いつでも、好きにしていいからね」
「こら! これから出かけるってときに、誘惑するな」
 おどけて言い、ショウ君は私のおでこをつつく。
「だって~。ショウ君が言い始めたんでしょ」
「俺が悪いって?」
「悪くないよ~。もし悪い人がいるとすれば、それは私」
「いや、雫も悪くない。悪いのはきっと、こいつだ」
 そう言って、運転席側の窓を開けるショウ君。
 その後、窓の外に向かって、激しく手を振っている。
 理由はすぐに分かった。
 蚊がいるみたい。
「ったく、いつから入り込みやがったんだ」
 蚊一匹、殺せないところ……幼稚園の頃のままだ。
 そこが妙に嬉しかった。
 根は物凄く優しくて、虫を殺したり、暴力を振るったりは一切しないところも、特に好きなところ。
 ショウ君がケンカをするところを見た記憶はないけれど、もししたとしても、きっと手は上げないはず。
 そんな心優しい人だ。
「やっと、出て行ったか。ふぅ」
 窓を閉めるショウ君。
「刺されてないか?」
 そう言って、ショウ君は私に顔を近づけてくる。
 なので、今度は私からキスをした。
「今の不意打ちは面食らった」
 頭を掻くショウ君。
「だって、我慢できなくて」
「でも、知ってる人に見られそうな場所では控えろよ」
「さっき、ショウ君だってしたじゃん」
「それはそうだけど、俺はいいだろ!」
 なぜ?
 もう~、そういうところ、勝手なんだから。
「分かった。気をつける」
 言い合いをしたくないので、大人しくそう言っておくことに。
 ショウ君はこの答えに満足らしく、「うんうん」と頷く。
 そして、思い出したかのように、説明を始めた。
「ああ、今日これから行くところについて、説明しておかないとな。今日はまず、水族館へ行こうぜ。この島の水族館は、そんなにでっかくないけど。でも、楽しめるはずだ。異論はないな?」
「もちろん、ないよ。楽しみ!」
 正直、ショウ君と一緒なら、どこへ行っても楽しめる私。
 それはさておき、水族館は私も大好きだから、大賛成だった。
「やっぱりな。確か、雫も魚が好きだったろ?」
「うん、よく覚えてるね」
「俺たち、これから行く水族館へも、ガキの頃、一緒に行ったことがあるんだぜ」
「え?」
 そうだったっけ。
 私の記憶にはなかった。
「俺は、はっきり覚えてる。雫はでかい魚よりも、小さい魚とかイソギンチャクが好きというマニアック路線だったなぁ」
 車を発進させながら言うショウ君。
「ちょっと~。マニアックじゃないし」
「ははは。いやいや、マニアックだったぞ。まぁ、それが本当かどうか、すぐ分かるさ。水族館はモールの近くにあるし、すぐ着くからな」
 割と近いんだ。
 私たちの車は、水族館へと向かった。
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