シーサイド・ティアーズ~潮風は初恋を乗せて~
 とにかく、この場にとどまっていてもしょうがないので、私はあてもなくさ迷い歩いた。
 道なんか、もちろん分からない。
 だけど、実に不思議なことに、「ここ、来たことがある」と感じる道もちらほらあった。
 幼稚園時代のおぼろげな記憶なんだろうか。
 なるべく、人通りの多いほう、多いほうを選んで歩く。
 電話はもうかかってこない。
 やっぱり、ショウ君……話してくれないんだ……。
 涙があふれてきた。

 いつしか、見たことのある景色に包まれて、驚く私。
 ここ……いつものモールだ。
 プラネタリウムって、意外とモールから近かったみたい。
 そのとき、スマホがまた音を立てる。
 ショウ君……?
 しかし、見知らぬ番号でぎょっとした。
 誰だろう……。
 知らない人から電話をかけられたことなど、間違い電話を除けば、今まで記憶にないので、少し不安になってくる。
 でも、勇気を出して、電話に出た。
 理由はただ一つ、ショウ君とこういうことがあって、直後の電話だから。
 きっと、間違い電話ではないはず。
「もしもし?」
「もしもし。烏丸です。雫様ですか?」
 烏丸さん?
 確かに、世話人の烏丸さんには、連絡先として番号を教えてあるけど。
 こんなときに、何の用事だろう。
「はい、そうですが……」
「今、どちらにいらっしゃいますか? すぐにお迎えにまいりますので」
「えっ?」
 もしかして、ショウ君が烏丸さんに頼んで?
 私は訳が分からない。
「詳しい事情は知りませんが、蓮藤君から『雫様とはぐれて見失ってしまった。なぜか電話が通じない。そちらから連絡してくれないか? 何か状況が分かったら、すぐ知らせてほしい』との連絡を受けましてね。幸い、運転手さんも待機してくれていますし、すぐにお迎えにあがりますよ。……今は、何もおっしゃらなくて大丈夫です。ご心配、要りませんよ。蓮藤君の場所も把握していますし。とりあえず、今どちらにいらっしゃるのか、お教えください」
 どういうことかさっぱり分からないけど、私は問われるがまま「モールです」と答えた。
「ああ、あのショッピングモールですね。了解いたしました。すぐに参りますね。そこで待っていてくださいね。では、後ほど」
 そして電話は切れた。
 烏丸さんが迎えに来てくれる。
 ショウ君……どうしたんだろ。
 なぜか、無性に不安になる。
 私……ちょっと意地を張りすぎたかな……。
 ショウ君がそばにいないだけで、私の心は悲鳴を上げていた。
 激しい後悔に苛まれる。
 こんなことになるのなら……ショウ君が話してくれるまで待つべきだった……。
 涙が止まらない私。
 烏丸さんが来てくれるまでには、普通の様子に戻らないと……。
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