今宵も、月と踊る
第四章:愛の定義
(よく降るなあ……)
私は感心したように硝子戸越しに空を仰ぐと、読んでいた文庫本に視線を戻した。
何度も繰り返し読んでいたせいで内容など覚えきっているせいか新鮮さはない。
暇つぶしに文字を追うだけの行為は気休めに過ぎない。お気に入りの日向ぼっこだってご無沙汰となっている。
イライラしながら顔に纏わりつく髪を手で払いのける。
何日も降り続く雨のせいで、ただでさえボリュームが多くて困るストレートヘアにうんざりしそう。
毎年、この時期になると今度こそショートカットにしてやろうと意気込んで美容院に行くのだが、結局はもとの髪型に落ち着いてしまう。
短い春は梅雨入りと同時に終わりを迎えると、庭の景色は新緑の鮮やかな緑色から紫陽花が凛と咲き誇る紫色に一変した。
季節の移り変わりを実感できるのも、この庭の特長だった。もしかしたら、“カグヤ”を楽しませるために植えられたのかと思うほどだ。