今宵も、月と踊る

私はふうっと息をついて、再び雨に濡れる庭の様子に目を向けた。

……ご無沙汰と言えば、豊姫だ。

転職先を探している時に邪険に扱って以来、離れに姿を現さないのだ。

(まさか……成仏したのか……)

いやいや、そんなはずはない。

簡単に成仏できるなら千年以上も幽霊としてこの世にとどまっていないだろう。

それでは、なぜ姿を現さないのか?

食い意地のはった豊姫が一度覚えた異国のお菓子を我慢できるとも思えない。

良からぬことが起こったのではと急に心配になってくる。

「豊姫……?」

硝子戸を開けて庭に向かって呼びかけてみるが、返事はない。

豊姫の身を案じる己の声が雨音の中に消えていく。

……私は、ひとりになってしまったのかしら。

離れにひとり残されると、どうしようない孤独を感じた。

ようやく豊姫の寂しがる気持ちが分かった。

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