今宵も、月と踊る
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「何だ?その格好は?」
志信くんは約束の2時ピッタリに迎えに来ると、私の格好を見るなり不満そうな声を上げた。
「何かおかしい?」
間違っても不満を言われるような、奇想天外な格好をしているわけではない。
いつも履いているチノパンに、カットソーとニットカーディガン。足元はヒールが低めのこげ茶色のパンプス。
地味と言われれば地味だが、至って普通。志信くんだって見慣れているはずの、私のワードローブの一部だ。
「折角、デートに誘ったっていうのに少しはその気にならないのかよ……」
「え?あれってデートの誘いだったの?」
「いいから行くぞ」
もういいと話を切り上げられて、車の助手席に押し込められる。
私だってデートだって知っていたら、それなりの格好にしたわよ!!
つい喉から出かかって、慌ててとめる。
待て待て。デートなんてあり得ないでしょう。
志信くんと私の歳がいくつ離れていることか。8つよ。8つ。どう見ても恋人同士はおろか、友人にだって見えない。
こんなことならノコノコついて行かなかったのに。
後悔先に立たず。哀れな私は助手席でシートベルトを締めた。
どうせ志信くんが満足するまで帰れないなら、大人しくしていようと心に決める。