今宵も、月と踊る
やけになってふかふかのシートにふんぞり返っていると、運転席に志信くんが乗り込んできた。
「志信くんが運転するの?」
「当たり前だろう」
彼はさも当然と言わんばかりに、シートベルトを締めて車のエンジンを掛けた。
(本当に大丈夫……?)
大丈夫と言われてもちょっと信用できない。
免許を持っていても私のようにペーパードライバーの可能性だってある。
疑わしげにハンドルを握る手を見つめていると、こちらの心の内を見透かしていたかのように先回りされる。
「安心しろ。大学までは車で行っているから運転には慣れているし、あんたが隣に乗っているんだから無茶もしない」
「ふーん。そうなんだ……」
……知らなかった。
良く考えてみれば志信くんだっていつも人間離れした力を発揮しているわけではない。
彼だって昼間は勉学に勤しむ普通の大学生だ。