今宵も、月と踊る
**********
(キスを……してしまった……)
……それも結構、濃厚なやつを。
突き動かされるような激しい衝動が治まり、頭が冷静になった途端、私は志信くんの顔がまともに見られなくなってしまった。
帰りの車内では運転席に背中を向けて、ずっと寝たふりをしていた。
志信くんに借りたジャケットを肩口まで引き寄せ、背中を丸めて猛省する。
私は求められるまま流されるようにキスをしてしまったことを後悔していた。
(なにやってんだろう……)
志信くんの身の上に同情でもしたのか。彼の寂しさを自分なら埋めてあげられるとでも思ったのか。
あの時掴みかけた兆しはすべて、星降る夜の闇の中へと溶けて消えていった。
……ただひとつ言えることがあるとすれば。
志信くんのキスは私にとって好ましいものだったという事実だけだった。
助手席側の窓ガラスには前を見据えて運転する志信くんの姿が反転して映っている。
私は気づかれないようにこっそりと、その凛々しい顔立ちを指で辿った。