今宵も、月と踊る
「着いたぞ。起きているか?」
ぼうっとしている間に、車は見慣れた塀の前で停車していた。
私は助手席から降りると欠伸を噛み殺しながら、大きく伸びをした。
星空の美しい山から都会の橘川家へと戻ってくると、深夜0時をとっくに過ぎていた。
隣に座っていただけの私ですら疲労困憊だ。夜更かしが辛いのは年齢のせいかも。
「今日はゆっくり休めよ」
志信くんはそう言って私の頭を撫でると、離れの玄関へは入らず本宅に向かって歩いて行く。
「あれ?今日はそっちに戻るの?」
あれほど逃亡を警戒していたくせに、どういう風の吹きまわしだ?
来るなって言っても、いっつも布団の中に潜り込んでくるくせに。
「このまま朝まで一緒にいたら襲いかかりそうだから、今日は自分の部屋で寝るんだろう?」
志信くんは不敵な笑みを浮かべて、私を罠に陥れようとしてくるから本当に厄介だ。