今宵も、月と踊る
「おやすみ」
羽が触れるような軽やかなおやすみのキスとともに、ふわりと香水の香りが漂う。
絡んだ視線には確かに雄々しい感情が見え隠れしていて、獲物を見つけた肉食動物のように鋭く光っている。
「お、おやすみ!!」
私は志信くんから逃げるように、慌てて玄関の中へと飛び込んだ。
(ああ、もう!!なんでこっちが振り回されているのよ……!!)
志信くんの目は……本気だった。
……本気で私を欲しいと思っているのだ。
真っ直ぐすぎる情熱を感じてぶるっと震えた己の身体を抱きしめる。
私は……彼の自分に対する感情をこれ以上誤魔化すことが出来なくなっている。
(冷静にならなくちゃ……)
そう思った時点で負けに違いないのだろうが、あえて無視をする。
この日を境に。
……私達の中で何かが変わろうとしていた。