今宵も、月と踊る

(あー。もう限界……)

何はともあれ、今日は疲れた。

志信くんも来ないなら、ゆっくりお風呂にでも浸かって身体を癒そう。

お湯に入れる入浴剤の種類を考えながら廊下を歩いていると、部屋の中からすすり泣く声が聞こえてきて度肝を抜かれる。

もしかして……。

「豊姫!?」

作法も忘れて襖を豪快に開けると、案の定豊姫が床に突っ伏して泣いていた。

“小夜!!どこに行ってたのよぉ!!”

豊姫はそう言うが早いか、私の胸の中に飛び込んできた。

びえーんと効果音がつきそうなほど、顔をくしゃくしゃにして泣いている姿は痛ましかった。

一日中こうしてひとりで待っていたのだろうか。

“もう帰ってこないのかと思った……っ……”

グズグズと鼻をすすり、目を兎のように真っ赤に腫らした豊姫は、母親を見失った幼い子供のようにしがみつく。

どこに行くのか告げずに置いてけぼりにしてしまったことで、随分と寂しい思いをさせてしまったようだ。

「ごめんね。志信くんとちょっと出掛けていたの」

“……志信と?”

「星を……見に行っていたのよ」

私は肩に引っ掛けていたバッグを畳の上に置いて、豊姫へのお土産に買った小瓶を取り出した。

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