今宵も、月と踊る
「行きがけに豊姫の好きそうなお菓子を買ったのよ。“こんぺいとう”っていうんだけど、とっても甘いの。これがまた星の形をしていてね……」
私は小瓶の蓋を開けると懐紙の上にこんぺいとうをのせて、小さな星空を作ってみせた。
白。ピンク。緑。オレンジ。
カラフルな色合いは、豊姫の着ている十二単の色彩にとても良く似ている。
(気に入ってくれたかしら?)
確かめるように表情を窺うと……。
“小……夜”
……豊姫の顔を手で覆ってその場に崩れ落ちた。
数か月一緒に居ただけだがこんなことは初めてで、慌てて駆け寄る。
「どうしたの!?もしかして気に入らなかった?」
豊姫は大きく首を横に振った。
“違うの……。そうじゃないのよ……”
「……豊姫?」
“小夜は志信が好きなの?”
突然の質問はただでさえ蒸し暑い部屋の温度を2度は上げた。
「ち、違うわよ!!そんなことあるわけないでしょう!?」
私はちがうちがうと手を左右に振って、語気を強めて否定する。
若い燕を買う趣味などない……と思いたい。今までそうだったのだから、これからだってそうだろう。
“そう……。ならいいの”
豊姫は私の様子を見ると少し元気が出てきたようだ。あからさまにホッと胸を撫で下ろしている。
“でもね、小夜。これだけは言わせて?”
「なに?」
その時、豊姫が放った言葉は一晩寝ても、私の頭の中から消えることはなかった。
“志信を好きになっていけないわ”