今宵も、月と踊る

「だから、付き合ってないって」

「ひとつ屋根の下にいて何もないってことはないでしょう?」

期待を込めたいやーな笑みを浮かべながら迫ってこられたので、大人しく白状することにした。

「……キスまで」

顔を真っ赤にして口元をペーパータオルで拭きながら答えると、鈴花は腹を抱えて笑い出した。

「20歳の若者にお預けを食らわせるなんて小夜ってば鬼畜ね!!」

「ちょっと!!やめてよ大声で!!」

周りのお客さんの迷惑にならないように、咄嗟に鈴花の口を手で塞ぐ。

……私の名誉のためにも誤解される表現は慎んでもらいたい。

(だから、付き合ってないって言っているのに!!)

本当ならお預けどころかつまみ食いだって許していない。誰にでもキスを許す軽い女には思われたくない。

鈴花がごめんごめんと軽い調子で謝っていると、一時休戦を促すように食後のコーヒーが運ばれてきた。

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