今宵も、月と踊る
コーヒーにミルクを垂らして、スプーンでゆっくりとかき混ぜる。
白と黒が混ざり合う色の変化を楽しんでいると、鈴花が大袈裟にため息をついた。
「それにしても、とんでもない相手に好かれちゃったのね。黙っていたのも無理ないわ」
……あのどうにも胡散臭い小話を信じたらしい。
志信くんは才能を無駄にしないためにも、今すぐ脚本家になった方がいいんじゃないか?
「小夜が羨ましいなー!!私、志信さんのファンなのよ」
「ファン?」
「今流行の和装男子!!もう、たまんないよね……」
うっとりと夢見心地でどこかを見上げる様子は、とても新婚ほやほやの既婚者の発言とは思えない。
……和装なら何でもいいのか。
(俊明さんに告げ口しちゃおうかしら……)
まあ、告げ口したところでこの夫婦の蜜月を邪魔できるわけない。
お惚気にあてられるのは目に見えているので、やっぱりやめておこうかな。
冷静に分析する私とは対照的に、熱が冷めやらぬ鈴花の志信くん談義はまだ続いていた。
「礼儀正しく見目麗しい上に、伝統を受け継ぐ由緒正しいお家柄。大病院の院長ご子息というおまけつき。志信さんって本当に絵に描いたように完璧な人よね……」
(ん?)
志信くんへの賛辞の中に幾つか聞き捨てならない単語があった。