今宵も、月と踊る

「やっぱり釣り合わないよね、私達……」

何でも恋愛に結び付けて考えられるほど若くない。

常識や世間体という柵を乗り越えられるほど強くない。

そのくせ、抱き寄せられると拒めないのだから本当に狡い。

心のどこかではどんな理由であれ、求められていることに喜びを感じている。

(……最低)

どっちつかずの曖昧な態度を取っているせいで、志信くんの恋情に拍車をかけ、ますます自分の首を絞めているのだ。

……好きになってはいけないのに。

そんな心の葛藤を鈴花はお見通しだった。

「今の小夜はあれこれと口実をつけて、志信さんから逃げているようにしか見えないわよ」

逃げていると指摘されても、そんなことはないと言い返せなかった。

私は逃げているのだろうか?

では、臆病者に甘んじることで何を守っているというのだ。

「人づてに聞いたのだけど、桐生くん結婚したらしいわよ」

予期せぬ知らせに目を見開く。

桐生くん……元カレが結婚した。

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