今宵も、月と踊る
「そっか……」
やっと掴んだ幸せが、いつまでも続きますように。
私が傷つけてしまった優しい人には面と向かって言えないけれど、いつかこの想いが届くといいな……。
時は偉大だ。
3年の月日を経たせいか、彼の名を聞いただけで押し寄せてきた後ろめたさは不思議なことに、懐かしさと親しみに変わっていた。
「小夜もそろそろ一歩踏み出すべきよ」
鈴花はそう言うと伝票とバッグを持って椅子を引いて立ち上がった。
「私、先に帰るね。本当はもっとゆっくりできるはずだったんだけど、急に夕方からお得意様が来店されることになっちゃったから。あ、今日は私のおごりね。結婚祝いも届けてもらったし」
財布を取り出そうとした私を、掌で制する。
「その代わりに志信さんに伝えておいてくれる?ご注文の品はもうすぐ出来上がりますって」
ご注文の品と聞いて思わず苦い顔をしてしまった。
……例の着物だ。
着物には詳しくないからと言い張って、志信くんと専門家の鈴花に全部託したわけだが、とうとう出来上がってしまったわけか。
「小夜は知らないと思うけど、志信さんそれは熱心だったのよ?」
その口調には微かな怒りが含まれていて鈴花が私にではなく志信くんに同情しているのは明白だった。