今宵も、月と踊る

こうしている間にも交差点は何度も赤信号と青信号を繰り返している。

もし、私がこのワンピースを着たら志信くんは何て言ってくれるのかしら。

似合うって褒めてくれる?子供っぽいって笑う?

この間はいつものワードローブで出掛けたら、随分がっかりされたし……。

(ああもう!!決められないっ!!)

腕組みをして考えたところで、結論は出そうもない。

購入を諦めて再び信号待ちの列に並ぼうと踵を返すと、そこに見知った顔がいて何度も瞬きをしてしまった。

「桜木?」

「波多野くん……?」

私達は互いに顔を見合わせて、指を差しあったまま固まった。

「うわ、偶然!!びっくりした!!」

「私もびっくりした。こんなことってあるんだね!!」

会社の同僚と街でばったり遭遇するなんて、偶然にもほどがある。

「ひとりか?」

「友達とランチしてさっき別れたところ。ちょっと暇つぶしにブラブラしていたの。波多野くんは?」

「俺は買い物。欲しい靴があってさ」

波多野くんの片手には靴屋の店名が印字されている紙袋の他にも、大小さまざまな紙袋がぶら下げられていた。

夏の賞与の恩恵をたっぷり受けて、物欲が大きく膨らんだに違いない。

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