今宵も、月と踊る
「桜木は買わないのか?この白いワンピース熱心に見てただろう?」
波多野くんは私がワンピースを買うのをやめたことを見事に言い当てた。
一体、いつから見ていたのだろう。
「可愛いなって思って見ていただけよ。こんなに女の子らしいやつ、着たってどうせ似合わないし……」
「絶対、似合うよ」
「波多野くん……?」
何だかいつもと感じが違うように思えて首を傾げる。
てっきり、似合わないと一刀両断されてゲラゲラ笑うとばかり……。
「ランチしてた友達って男じゃないよな?」
「うん。女性だけど……」
……だから、それがどうしたっていうんだ。
「良かった……」
波多野くんは相手が女性だとわかると、明らかにホッと胸を撫で下ろしていた。
「今度、俺とも昼飯付き合ってくれよ」
照れたように頭を掻く仕草はとても波多野くんのものとは思えない。社外で会ったせいなのか、まるで別人のようだ。
「別にいいけど……どうしたの急に?」
「会社だと堂々と誘えないだろう?都築さんに冷やかされるから」
「何で?」
人をからかうのが好きな都築さんだって同期同士が食事に行ったくらいで、変に勘違いして冷やかしたりしないと思うけど……。