今宵も、月と踊る
連れてこられたのはどこかのビルの地下駐車場だった。
停めてあった車の後部座席につき飛ばされて、志信くんに圧し掛かられるともう身動きがとれなくなる。
スポーツカーの後部座席が乗用車より狭いということを、嫌なタイミングで知ることとなった。
「あいつは誰だ?どうして一緒にいたんだ?」
両手首は志信くんにがっちりつかまれ、ふかふかのシートに押し付けられている。
「波多野くんは……会社の同僚で……。さっき偶然会って……」
「何で口説かれてるんだよ」
「私だってそんな風に想われていたなんて知らなかったもの……」
志信くんの言っていることは完全な言い掛かりだ。私に落ち度はない。
それでもこちらに非があるとでも言いたげな冷めた目つきで見下ろされれば背筋が凍る。
(怖い……)
とにかく話題を変えたかった。
密室にふたりきり。しかもこんな体勢でまともな話し合いができるとは思えない。
「志信くんこそ、どうしてあそこにいたの?」
「早めに来てみたら車からあんたがひとりで交差点に立っているのが見えて、声を掛けに行ったんだろ。三好屋の若女将はどこに行ったんだ?」
鈴花の行方を聞かれて、つい目を逸らしてしまう。