今宵も、月と踊る

「……先に帰ったわ」

一緒に出掛けると言っておきながら、肝心の本人がいないとなればお話にならない。

小さな綻びは更なる誤解を生んだ。

「最初からいなかったんじゃないか?」

「は?」

「正直に言えよ。三好屋の若女将じゃなくて、あいつとずっと一緒だったんだろう?」

……私は嘘をついたと疑われているのか。

だから志信くんはこんなに怒っているの?

「嘘なんてついてないわ!!鈴花と会っていたのは本当なのよ!!」

「さあ、どうだか?」

渇いた笑いが車内に響き渡って、嘘をついたと私を責める。

馬乗りになっている志信くんの体重がズシリと重みを増したような気がした。

「俺のことなんてどうでもよかったんだろう?お情けの愛情を分け与えてくれてありがとうって感謝でもした方がいいか?」

辛辣な言い方にジワリと涙が滲みそうになる。

でも、ダメだ。泣いてはいけない。

これは報いだ。志信くんの気持ちから逃げて、都合の良いように扱った私に責任がある。

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