今宵も、月と踊る
「違うの……っ……」
お情けのつもりなんてこれっぽっちもなかった。
私は……ただ……。
「気づかれていないとでも思っていたのか?キスをして抱き合ったところで、あんたは一向に心を開いてくれないじゃないか!!」
私は志信くんの激情を、目を瞑ることで耐えてみせた。
力任せに引っ張られたカーディガンはボタンがいくつも弾け飛んでしまった。呆然としていると、無防備にさらされた胸元にゆっくりと手が伸ばされる。
「……もう限界だ」
……これから何が行われるかは考えたくもなかった。
次の瞬間、志信くんは獲物を見つけた肉食獣のように喉元に食らいついてきた。
「い……や……っ……!!」
這わされた舌の感触に身震いする。
抗おうと身を捩っても、身体も押し返しても、志信くんはビクともしなかった。
彼は年下ではあるが歴とした男性なわけで、非力な私はなすがまま組み敷かれる。
「“カグヤ”……。俺の……」
キャミソールの肩ひもをずらして橘の痣に口づけると、うわごとのように何度も呟く。
チクンと胸に痛みが走った。橘とは異なる赤い花がいくつもいくつも胸に咲いていく。
「もう……やめて……!!」
スカートを脱がされそうになると、私はたまらず懇願した。
このまま強引に事に及べば私達の関係は決定的に変わってしまうだろう。
ふたりで星空を眺めた日にも、アイスを食べさせあった日にも還れない。
私はどうしても志信くんを止めたかった。
「お願い……」
……もう二度と大切な物を運命という名のもとに攫われたくなかった。