今宵も、月と踊る
夏に訪れる嵐のようだった。
彼は平穏だった生活を土足で踏み荒らし、私を半ば強引に離れに閉じ込めた。
年下の癖に偉そうに命令ばかりするし、他人の話は聞く耳をもたない。自分の思うように事を運ぼうとする姿勢は今でも苦手だ。
いいように扱われてたまるものかと意地を張っていたのは束の間のことだった。
欠点を補って有り余るほどの魅力に先に白旗を上げたのは私だった。
瞳を閉じれば、桜の花びらと舞い上がる風の残像が瞼の裏に浮かぶ。凛々しく舞う姿に魅了され、意地悪な素顔には翻弄された。
私は瞳に闇を宿した不思議な青年のことが気になって仕方なかったのだ。
類稀なる力と優れた容姿に隠された、底の見えない孤独。
それが他人の生き死に深く関わっているせいだと分かったのはずっと後になってからのことになる。
彼の抱える闇は“カグヤ”に対する愛情と比例していた。
“小夜……”
志信くんには眩しい太陽の光よりも、控えめに輝く月の光が良く似合う。
息をつく間さえ与えられずに施された口づけの甘さに年甲斐もなく夢中になった。抱き寄せられる度に、心臓の鼓動を感じて身体が火照った。
寝る時に抱きしめて離さないのは寂しさの表れだったってこと、分かっていたの。子供のような我儘を口にするには、他に引き留める術を知らないから。
(私はとんでもない欲張りだ)
……神に愛されている彼を自分だけのものにしたいなんて。
けれど、もう止められない。
……他の誰よりも志信くんが愛おしい。