今宵も、月と踊る
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「ごめんなさい」
そう言って頭を下げると波多野くんは、はあっと息をついて首の後ろを掻いた。
「キッパリ振るかよ?容赦ないなあ、桜木は」
冗談半分、呆れ半分。
波多野くんは責めるわけでも、怒るでもなく私の話を聞いてくれた。
いつものランチタイム。
波多野くんを誘って訪れた会社近くのカフェテリアは近隣のOLとサラリーマンの談笑で活気に溢れていた。
注文して直ぐに運ばれてきたランチセットに舌鼓を打つ余裕もないのは私ぐらいだった。
「こうなることはなんとなく分かってたよ。あの男が現れた時から。桜木はあいつのことが好きなんだな」
波多野くんから改めて指摘されると、無言で頷く。
「本当に良いのか?あいつ、かなり年下だろう?桜木が苦労するのは目に見えてる」
志信くんと私はさぞ不釣り合いに見えただろう。
28歳の女が8歳も年下の男性を本気で好きだという。
自分でもおかしいことはよく分かっていた。
「それでも良いの。もう、決めたの。行けるところまで行ってみようって……」
……志信くんが一緒ならどこまでも堕ちていけそうな気がするの。