今宵も、月と踊る
第七章:想い、裏腹
俺が“カグヤ憑き”だと分かったのは、まだ物心もつかないガキの頃だった。
その頃はまだ健在だった母親が花を生けるためにむしった葉で指を切った時、それは突然発揮された。
血が滲んだ指に手をかざすのと、傷が消えるのはほぼ同時のことだった。
今でも覚えているのは青ざた母親の顔と、力の発現を喜ぶ祖父の獣じみた声だ。
母親は息子をしかと抱きしめると涙を流しながら運命を嘆いた。
その腕の中で俺は子供心にいけないことをしてしまったのだと悟った。
自分がどういう家に生まれたか。
ましてや“カグヤ憑き”であることの意味など知らなかった。
……治癒の力はそれまでの生活を何もかも変えていった。
祖父による舞の稽古は狂気を帯び、ますます苛烈になった。
同じ屋敷内に住んでいるのに母親とは滅多に会えなくなり、代わりに誰とも知らぬ大人に囲まれるようになった。