今宵も、月と踊る

父親は病院の経営にしか関心がなく、家に残された母子のことを顧みることはなかった。

その内に母親は胸を患って死んだ。臨終に立ち会うことは許されなかった。それ以前に、床に伏していたことすら知らされていなかった。

“カグヤ憑き”の力は厳重に管理されていた。母親の病を治すことに気を取られて、“顧客”の相手を怠るのではと考えた祖父の仕業だった。

(俺は……何者だろう……)

母親を亡くし“カグヤ憑き”としての己の力に疑問を感じると、いつからか強い飢餓感に襲われるようになった。

悪夢にうなされるようになった俺の飢えた心を、寝物語のように聞かされた伝承が慰める。

俺の“カグヤ”は一体どこにいるんだ……?

探し求めていた“カグヤ”に出逢えたのは、それから数年後のことになる。

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