今宵も、月と踊る
今宵の祈りは聞き入れてもらえるだろうか。
瞑想が終わると床に置いていた榊を手にとって祝詞を唱え始める。
小夜のアキレス腱が切れたのは8年前。これほど年月が経っている怪我を治したことはなかった。
それでも、治せるだろうかという不安より治したいという願望の方が強い。
祝詞を唱え終え立ち上がって月に向かって一礼すると、いつもと同じように舞い始める。
祭壇は用意されていなかった。今日は観客も、顧客もいない。誰の為でもない、自分の為の舞だ。
(届け……)
届かないと意味がないんだ。
……俺が小夜にしてやれることなんて他にないのだから。
この気持ちはどこからくるのだろう。
“カグヤ”だから?
いや、違う。
……俺はいつのまにか小夜をひとりの女として愛し始めている。