今宵も、月と踊る
「妄想の次は嘘か……。君はまさか志信に愛されているなんて思い違いをしているのか?」
朧先生は真実に打ちのめされている私に更なる追い打ちをかけていく。
「事件があるまで、二人ともそれは似合いの恋人同士だった」
「わた……し……」
……お願い、誰か嘘だと言って。
嘘だといってくれたら、また志信くんのことを待っていられるのに。
お願いだから奪わないで。
志信くんは私のものよ……っ……!!
「“橘”を取り出す方法を見つけろ。真実がわかった以上、傍にいても辛いだけだろう?“橘”を手離せば“カグヤ”ではなくなる。この家にいる意味もなくなる」
心の隙間に入り込んだ毒はあっという間に広がって健康な部分を浸食していった。
信じるって決めていたのに、あっという間に飲み込まれていく。
目の前が真っ暗になって、とても夜明けなど訪れそうにない。
真実はあまりにも過酷な運命を私に強いてきた。