今宵も、月と踊る

“小夜、聞いて頂戴”

一筋の光に導かれるように顔を上げると、真剣な面持ちの豊姫と視線がぶつかる。

“私はあなたをカグヤの宿命から解放してあげることができるわ”

「どう……やって……?」

“私が魂を分離させることができるのを忘れているの?それは食べ物に限った話ではないわ”

“橘”を取り出す方法がこんなに簡単に見つかるとは思わず目を見張る。私は豊姫が実際に魂を取り出しているところを何度も見ている。食べ物以外でも出来るというのは事実なのだろう。

“あなたが望めば橘を志信に返すこともできる。ただし、分離させた魂を別の者に与えるには一定の条件があるの”

(返す……?)

志信くんに橘を返して、それからどうしたらいい?

“カグヤ”でなくなれば、私には何の価値もなくなる。

……もう、志信くんの傍にはいられない。真尋さんの居場所を不当に奪ってしまったのは私なのだから。

“決めるのはあなたよ、小夜”

豊姫は光を湛えるあの月のように静かに決断を迫ってきた。

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