今宵も、月と踊る
第一章:穏やかな世界の終わり
「桜木さんは良いご縁はないの?」
酒に酔った社長がにたっと笑いながら、私のグラスにビールを注ぎ足す。
新年会は夜10時を過ぎてもお開きになる気配はなく、無礼講と言わんばかりのバカ騒ぎは他の客の迷惑を顧みることなく続いていた。
(大広間を予約しといて良かった)
今回の飲み会の幹事である私は、己のナイス判断にグッと拳を握りしめた。
普段は真面目に仕事をするけれど、羽目を外す時はとことん外す。
従業員は30人ほどしかいないが、“株式会社アートメイク”はONとOFFの切替にメリハリのある会社だ。
新卒で就職してもう6年。
ベテランの経理担当になった私はお局さんと呼ばれてもおかしくない年齢になっていた。
そのお局さんの結婚を心配するのは社長の親心なのか。単におせっかいなだけなのか。