今宵も、月と踊る
「成典が“カグヤ”に“カグヤ憑き”の心の半分を渡していたのは、いつの日かあなたとの再会を夢見ていたからなんじゃないかしら?」
志信くんとひとつになった時、私は彼の瞳の奥に成典の姿を垣間見た。
成典から私に流れ込んできたのは、豊姫に逢いたいという切なる感情だけだった。
「成典は豊姫を恨んでなんかいないわ。それどころか、あなたと一緒に天に昇る日をずっと待っていた。“カグヤ憑き”はそのためにあったのよ」
橘を返すと同時に私は志信くんの一部……“カグヤ憑き”の一部を代わりにもらい受けた。
その証拠に、ほら……。
「あなたにも、見えているはずだわ」
にんまりと微笑んで、木の柱に向かって指を差す。
“豊……姫……”
もうひとつ半透明の身体が、豊姫の名前を呼びながらゆっくりと姿を現した。
縹色の直衣姿で呆然と立ち尽くすその顔立ちは、どこか志信くんに似通ったところがあった。
豊姫の表情が喜びと興奮で上気したものに変わっていく。
“成典様……本当にあなたなの……?”
“豊姫、今こそ約束を果たそう。私と君は如何なる時も供にあると誓ったのではないか?”
“ええ、そうよ。ずっとあなたにお会いしたかった……!!”
手に手を取り合い寄り添うふたりの幸せそうなことといったら、私までつられて涙ぐんでしまう。