今宵も、月と踊る
「良かったね」
“小夜、なんて言ったらいいか……”
「やだ、こういうことは言いっこなしでしょ」
愛のキューピットなんて柄じゃないけれど、相手が死んでも愛し続ける究極の赤い糸っていうのがひとつくらいあっても良いんじゃないかと思うの。
(もう、ひとりぼっちじゃないよね)
約束は果たされ、ふたりが離れることは二度とない。
“小夜、手を出して”
成典の温かな腕の中に包まれていた豊姫が目尻に浮かんだ涙を拭いながら言う。
“私が生前持っていたものだけど、あなたに譲るわ”
言われたように手を差し出すと、豊姫がその上に何かを置いた。
幽霊からもらったというのに実体があるのが不思議だったが、散々奇怪な出来事に遭遇してきておいて今更これだけ指摘するなんて野暮なことはしない。
「綺麗……。勾玉ね」
薄ピンク色の勾玉はトクントクンと小さく脈打つように輝いていた。
“成典様に頂いたものなの。カグヤ憑きとまでは言わないけれど、治癒の力があるわ”
……この家には私より治癒の力を必要としている人がいる。