今宵も、月と踊る

「真尋さんにあげても構わないかしら?」

“あなたに譲ったものよ。好きにしていいわ”

私は豊姫にもらった勾玉を桜色の着物の上に置くと、真尋さんに渡してもらえるように手紙に書き添えて、スーツケースの持ち手に手を掛けた。

「豊姫、あなたのことが大好きよ。妹がいたらこんな感じかなっていつも思っていたわ」

豊姫がいなかったら離れでの生活は、味気なく、つまらないものになっていただろう。

……ありがとう。

今度こそ本当にお別れを言わなければならない。

“カグヤ”の証を失った私には、豊姫と成典の姿が徐々に薄く見えなくなっている。

豊姫は茶目っ気たっぷりにウインクして言った。

“何言っているのよ。私の方が千歳は年上なのよ。姉の間違いでしょう?”

私は思わずぷっと吹き出してしまった。

「その通りだわ!!」

私達は互いに顔を見合わせて大声を上げて笑いあった。

……大好きよ。

これが今生の別れになろうと、私はあなたを忘れない。

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