今宵も、月と踊る
最終章:運命の先にあるもの
(何だ……?)
何かに呼ばれたような気がして、顔を上げ視線を屋敷の方に向ける。
「どうされましたか?」
宮司は打ち合わせ中にも関わらず、急に上の空になった俺に対して眉を顰めていた。
月岩神社の宮司は礼儀に関しては人一倍厳しい。神事に携わる者として、これほど頼もしいことはない。
「いや、何でもない」
早く用件を済まして帰りたいと、気が急いているのだろう。
小夜に呼ばれた気がするなんて、恋しがっているようにしか思えない。
小夜と結ばれた昨夜のことを思い出すと、不思議な充実感に満たされる。
(これでは獣だな……)
身体を重ねる度に理性を失ってしまっては、小夜もこれから困ることだろう。
改めて大祭のタイムスケジュールと、雅楽団との音合わせの日取りを確認し始めたその時、邪魔をするように携帯の着信音が鳴った。
「すまない」
再び眉を顰めた宮司に一礼して廊下に出る。
着信相手を確認すると正宗だった。
「どうした?」
“申し訳ありません!!”
取り乱すなんて珍しいこともあるものだとからかう暇もなく告げられた言葉に、思わず耳を疑ってしまう。
「小夜がいなくなった?」