今宵も、月と踊る
平伏して謝罪する八重と門番をとりなして、自室に戻ると昨夜と同じ悪態をついて壁を殴る。
「くそっ!!」
ミシリと柱が鳴り、天井からはパラパラと塵が落ちてくる。
俺は己の不甲斐なさに唇を噛みしめた。
小夜に聞きたいことが山ほどあった。
どうして俺の前から消えた?
いつから真尋のことを知っていた?
利用するために手元に置いたことに気づいて、幻滅したのか?
ならば、なぜ抱いてくれなんて言ったんだ。
(ひどいじゃないか……)
ようやく手に入れたと思ったのも束の間、一晩で姿を消すなんて。
ローベッドには昨夜の残り香が甘く漂う。
もう、小夜がいないと夜も眠れない。
「っあああああああああ!!」
咆哮を上げながらテーブルに置いてあった物を床にぶちまけ、本棚を本ごとなぎ倒す。
何もかも破壊してしまいたいという衝動はそれでも収まりそうになかった。
窓ガラスを割り、障子と襖を蹴り倒すとゼイゼイと息が切れてきて、ようやく我に返る。
……壊しておけばよかった。
この部屋から出て行けないように、俺の手であいつを壊しておけばよかった。
俺なしでは生きられないようにしておけば、逃げられることもなかった。