今宵も、月と踊る

「あの……鈴花は?」

「今日は月岩神社に行っているわよ。俊明が催しで篳篥を吹くのよ」

「へえ……そうなんですか」

篳篥は雅楽で使う笛のひとつだったと記憶している。鈴花の旦那様は多才だな、と素直に感心してしまった。

「私は店があるからいけないけれど、散歩がてら小夜さんも行ってみたらどうかしら。ちょうど、桜が見頃よ」

「そうですね。行ってみます」

家に帰っても、ぐーたらするしか能がないのだから、花見と洒落こむのも悪くない。

花見に行く前に忘れないようにと、持ってきた紙袋を差し出す。

「鈴花と俊明さんに渡しておいて頂けますか。結婚祝いです」

「あら、ありがとう。あの子達もきっと喜ぶわ」

中身は湯呑と茶葉のセットだ。和装のカップルに贈るのに相応しい代物だ。

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