今宵も、月と踊る
後部座席に横向きに座り素足を若宮さんの触診してもらう。若宮さんは先ほどの柔和さを引っ込め、真剣な表情で私の左足を揉んだり指で弾いたりして具合を診ていた。
(どういうつもりなんだか……)
サプライズを仕掛けた貴子をジロリと睨むが、本人はどこ吹く風で診察行為を興味深げに眺めていた。
私には長いブランクがある。今更、華々しい競技生活に戻れるわけでもない。
現役で活躍している選手の専属トレーナーに診てもらえる機会など滅多にないが診察行為自体、無駄としか思えなかった。
「どうなのよ?」
貴子はそわそわと焦れた様子で若宮さんに尋ねた。
「アキレス腱自体は自然治癒もする部位です」
若宮さんは足に軽いマッサージをしながら言った。
「あなたや貴ちゃんのような一流のアスリートは筋肉の微妙な感覚が狂うと不調を起こすことがあります。怪我をした部位の周りにはそれを補うように、余計な筋肉がついてしまいますから」
「……そうです」