今宵も、月と踊る

宝城学園から20分ほど車を走らせ、我が家に帰宅する。

ペーパードライバーだった私も必要に迫られて毎日車を運転するようになった。この辺りには電車もなければバスもほとんど走っていないため、残された移動手段は徒歩か自転車か自家用車しかなかった。

後ろ向きの車庫入れにも大分慣れてきたところ。今日も駐車スペースの両脇に引かれた白線からはみ出ないようにピタリと車を停車させる。

1LDKの賃貸アパート駐車場つき。2階の角部屋205号室が私の部屋だ。

「ただいま」

帰宅すると真っ先にシャワーを浴びる。

汗まみれのジャージを脱ぎ水道の蛇口をひねると、頭からお湯をかぶって汚れを洗い流す。

夕食はありあわせのもので済ませた。

夕食後は指導記録をつけて、明日の個人用のトレーニングメニューを組む。

それが終わるとベッドに潜り込み、眠気がやって来るまで貴子が貸してくれたコーチングに関する本を読み進める。

コーチ業だけでは食べていけないので、朝夕は学生寮の寮母さんの手伝い、空いた時間で在宅できる登録制の経理事務のアルバイトをしている。

明日も寮生の摂る朝食の支度を手伝わなければならないというのに、今夜はどうにも目が冴えて眠れそうにない。

本から枕元においた時計に目線を向けると、時計の針は深夜の2時を指していた。

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