今宵も、月と踊る
「今から?」
“そ、今から!!”
キャッキャッとはしゃぐ貴子とは対照的にげんなりと暗い気持ちになる。
今、何時だと思っているんだ。
これから酔っ払いふたりの相手をするのは辛いものがある。
「明日も朝から早いんだけど……」
“いいじゃない!!とにかく飲みましょうよ!!”
「あのねえ……」
どう断ろうかと思案に暮れながら歩いている内に、アパートまで数メートルというところまでやって来る。
行く行かないの応酬が部屋まで続くかと思ったその時、私はアパートの外階段の前に立っていた人影に目が釘付けになった。
うすぼけた外灯の光に照らされている黒のVネックTシャツに、細身のジーンズ姿が愛しい青年の後ろ姿と重なる。
(これは……幻……?)
会いたいと望んだから月が願いを叶えてくれたのか。
しかし、幻は私を見つけると微笑んでみせた。
「小夜」
胸を高鳴らせる淡い響きは幻などではなかった。