今宵も、月と踊る
まだ大学生だろうか。黒のロングコートにジーンズ姿が良く似合っていた。
神社に参拝するなんて古風なところもあって、今時の若者にある浮ついた印象がなかった。
……それに、とても綺麗な目をしていた。
彼の目は何もかもを見透かすような鋭さと、若さゆえの燃えるような情熱を湛えていた。
さぞ、女性を虜にしていることだろう。
そう思うと何だか腹立たしくなってきて、件のチューインガムの包み紙を財布から取り出した。
大事に所持しているのが、急にバカらしく思えてきたのだ。
(きっと、からかっただけよね)
年上の女性をからかうなんて悪い男だ。ある意味、将来有望に違いない。
私はそう結論付けると、包み紙をふたつに破いて通りに設置されていたゴミ箱に投げ入れた。