今宵も、月と踊る

なんて美しいのだろう。

誰もが彼の一挙手一投足に目を奪われた。

身を翻す度に衣がはためいて、どこからともなく鈴の音がチリンと鳴る。

舞は神への捧げものなのだ。決して邪魔をすることが許されない神聖なもの。

篳篥の音は真っ直ぐ空を貫いていく。春の穏やかさの中に冷たい風が吹き込んでいった。

ざざっと桜の木が揺れて花びらが舞い散る。

“カグヤ……”

葉擦れの音とともに、小さく声が聞こえたような気がして首を傾げる。

(気のせいよね)

花びらは気まぐれな風にのって、神楽殿の舞手の元にまで運ばれていった。

祭壇を見ていた舞手の顔が、ふいにこちらに向けられる。

(え?)

舞手と目が合ったような気がして、そんなバカなことがあるものかと思い直す。

神楽殿からここまで30メートルはある。この距離で目が合うなんて考えられない。自意識過剰もいいところだ。

……でも。

彼の姿をどこかで見たことがないだろうか?

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